先祖への敬意を表し、家系や由緒を示す記しであった「家紋」ですが、よくこうした質問を頂戴いたします。
「家紋の中に、あの方にとても合うデザインがあるのですが、勝手に使っても構わないのでしょうか？
代々伝わる家紋しか使ってはいけないのでしょうか？」
答えは家紋の歴史が教えてくれておりますので、少し紐解いてまいります。
平安の頃、貴族社会が自然や美意識を反映し文様としてデザインされた調度品や衣服が用いられました。
主に植物が中心であり、 同じ文様を長年重用するにつれ、その文様が家のシンボルとみなされ、文様から紋章へと移行し、家格を表わす役割を持つようにもなりました。
武家社会にも紋章はありましたが貴族社会の優美さは必要なく、敵味方が一目で認識できるような単純な形が多くありました。
やがて、豊臣秀吉の天下統一で戦乱が静まるにつれ紋章は、家格を表する儀礼的なものに変化し、菊、桐紋は法令で禁止されます。
さらに豊臣政権の消滅と共に、象徴であった桐紋に代わり、徳川家の隆盛に伴い葵紋が権威を持つようになり徳川御三家以外の使用を禁止された歴史があり、武家社会では権威の象徴でもありました。
一方で、苗字帯刀が許されなかった庶民には、前出のご法度はありましたが紋章の自由が認められました。
当時、芸能の中心であった役者や遊女。さらに歌舞伎役者が一門の記として紋章を作るなどして一気に紋章は広まっていったのです。
やがて経済力を持った町人文化が発展し、大名よりも豪華で優美な生活をするようになり、さらに武家社会に対抗して町人の自由と気風(きっぷ)の良さ、「粋」や「洒落」を競うようになしました。
町人たちは自由に紋章を使えますので、生活用品、玩具など様々なモチーフまでもデザイン化し紋章をつくり武家社会への対抗心を表現したのでございます。
[出典参考：日本の紋章 PIE BOOKS]
これらのことから家紋には２通りの考え方があることが覗えます。
１つは、代々受け継いで守っていく継承の家紋。
もう１つは、町人文化から派生したデザインを自由に楽しむという考えの家紋。
外国の方には、歴史の縛りは薄いせいか家紋のデザインを楽しむという事には抵抗がないように感じられます。
「信長が好きだから、信長の家紋を入れてください！」
僕は、家康の方が好き！
弓道の方も使われますが、私はアーチェリーの選手！
僕はダーツプレイヤー！
僕はヨットに乗るから船の家紋がいいなぁ～
手拭い家紋：帆掛け船・碇
サーファーは波でしょ！
手拭い家紋：浪に兎
サーファーだけど僕が好きなのはイーヤン！
外国の方で家紋に興味を覚える方は、洗練されたデザインであるこことに感銘を受け、それが、はるか昔に誕生したデザインであることに驚いているのであります。
権威の象徴や家格を表した歴史があり少々堅苦しい面も持ち合わせておりますが、日本の歴史や文化が育んだシンプルで完成された意匠デザインでありますので、継承していく意味におきましても、もう少し気軽に使われても良いのではないでしょうか。
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